昨日、京都で小・中・高が一緒だった山本和夫さんの企画・演出による「少女夢幻論ll」を新宿で観た。
有望若手女優がひとり芝居を行うという事で、彼女たちの美少女ぶりを売り物にした劇だろうと迂闊にも思っていたが、まるで違っていた。
8人の女優がそれぞれ約10分間、見えない相手に向かって弾丸のように話すだけでなく、対話によって臨場感を持った世界を作り上げている。そして、絶え間ないアクションもあり、中には両膝からどすんと床に跪く荒業もある。相当高いハードルだと思うが、それらを軽くこなす彼女たちの練習量も相当なものであることが窺われる。
内容は、家族、男女、そして死に纏わる不条理劇と言っていいだろうか。
例えば、「シャボン玉」の少女が鼻をかむと、テレビ取材者が、汚い、体から出てくるものはみんなゴミだ、と言うので、じゃあ、自分は母親の体の中から出てきたので、同じごみではないかと問い掛ける。「病み上がり」では、不幸のもとだった父親が死んで幸せになった今、歌うものは何もないという少女が現れる。「ハレ者/転嫁」では、結婚式に臨む再婚の女性が、あなたが男をやめるか、私が女をやめるか、どちらかにしろと結婚相手に迫る・・・。
ここに明るいものは一つもない。むしろあるのは絶望的な状況である。しかし、それを美少女たちが演じるということで、不思議と暗さもない印象で、この乖離も一種の不条理ではないかと感じた。
劇という一期一会の空間でしか味わえない緊張の連続に90分はあっという間であり、もう一度観て内容をもっと強く咀嚼したいという思いが残った。
家に帰って脚本家の富安美尋という人物を調べてみると、まだ若い女性で、しかも、TBSのドラマの脚本も手掛ける才人である。また、山本和夫さんが主宰するドラマデザイン社出身の脚本家でもある。
そのドラマデザイン社であるが、元々は読売テレビでドラマの演出やプロデューサーを行っていた山本和夫さんが退社をして、2000年に立ち上げた会社である。テレビドラマはあまり見ない方であるが、彼が手掛けた石田ゆり子主演の「彼女の嫌いな彼女」などは何となく覚えている。そのまま順風満帆に読売テレビの中でさらなるキャリアアップも望めたであろうが、退社して会社を興したのは、自らドラマ制作の現場に常に立ち会いたいという思いが強かったからだと聞いている。
その彼が、予定調和的なテレビドラマ調の劇ではなく、万人受けはしない、かすかに昔のアングラ劇を思わせるような尖った劇の企画・演出を、少人数の観客の前で行っているという事に対して、思わず居住まいを正した。今後も機会があれば、その道の行く末を見届けたい。
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