今から三十年余り前、暇に任せてツキ板(木を薄くスライスしたもの)シートをカッターで切り取り、象嵌の絵を作ったことがありました。
かつて見せたことのある友人にもう一度見たいと頼まれて、久しぶりに袋から取り出して眺めたところ、多少の浮きや隙はあるものの、なんとかまだ絵にはなっていました。しかし、よくもまあこんなことに打ち込んだものです。確か型紙を作って、何枚もの違った樹種のツキ板シートをその型紙通りにカットして、ひとつずつベニヤ板に貼り合わせていったのです。
使われている木は、例えば、湖はタモの玉杢、道はホワイト・オーク、そして虎の体はケヤキ、その縞はコクタン、背景はボリビアのローズウッド、などなど。今見ても、木の模様は本当に飽きることがありません。 この時は銘木を扱う会社に入社してまだ数年、この先、自分の人生にはどんなことが待ち受けているのだろうかと、期待よりは不安の方が大きかったような気がします。その入口に立っている自分の気持ちを表そうとしたのでしょう。
そして、袋の中には友人に撮ってもらった、それよりもさらに若い、大学生時代の写真も入っていました。場所は確か上野公園の入口。これから一段ずつ登って行かなければならない人生の入口のようにも見えます。その階段の先にはワイシャツにスラックスのサラリーマンの姿が。そうか、この時に自分の行く末は既に定められていたのか、そして今それを全うしようとしているのか(苦笑)。
もうすぐ到着する出口に向かって、一歩ずつ踏みしめていく大地と、そこに立っている木々の有難さとをひしひしと感じる今日この頃です。
おぉ...懐かしい写真! そして、突板の象嵌、すごいねぇ。こんな繊細な作業をよくやったものだと感心します。 そして、作品として自然素材を使ったことが最大限に生かされた素敵な雰囲気がありますね。 ―というコメントを、写真の撮影者であるめがねさんより頂きました。