感想文7

更新日:1月18日

 不思議な経験をした。偶然続けて読んだ2冊の本がシンクロした。互いの内容を補完し合い融合して、より深い理解と感動を与えてくれた。

 最初の1冊は、幼馴染の冨部久君が、構想20年会社勤めの傍ら執筆した自費出版本『人生の花火』である。(以下、冨部本という。)花火写真家『金武 武』氏をモデルとし、極度の食物アレルギー体質で喘息発作に悩まされた幼少期から、花火写真家として独立し、その地位を確立するまでの主人公の人生が描かれている。

 続けて読んだもう1冊は、IPS細胞の研究者山中伸弥氏が、ラグビー界のレジェンド平尾誠二氏との交流を語った『友情』注1である。(以下、平尾本という。)胆管癌のため53歳で亡くなった平尾氏の晩年に知り合い、一緒に闘った闘病生活が描かれている。日本を代表する研究者山中氏の言葉には、説得力がある。

冨部本では、“人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間”として、関内の花火大会での、主人公と打ち上げ花火との運命的な出会いが描かれている。平尾本では、山中氏より、学生時代のラグビー仲間の人生が、平尾氏によって変えられた瞬間注2が語られている。これに対し、平尾氏は、「どっちが良かったか分からないが、人生まさに塞翁が馬。そういう人生の流れみたいなものって、予期せぬところで変わるんですね。」と、コメントしている。

 また、平尾氏は、「理不尽や不条理や矛盾を経験しないと、やっぱり人間は成長しないし、強くならないと思う。」と、語っている。冨部本では、金武氏の苦悩に満ちた半生が、淡々と描かれている。私は、金武氏に感情移入し金武氏と共に疑似成長し、そして初めて開いた展示会のシーンで、“ああ良かったな”と、感動したのである。

 平尾氏は、ボスザルの条件として、次の三項目を挙げている。

 ① 親の愛情を受けて育った

 ② 雌ザル子ザルに人気がある

 ③ 離れザルになるなどの逆境を経験している

 金武氏は、ボスザルの資質も備えていると思われる。

経験した数々の挫折は思い出したくもないが、“人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間”を振り返ることには、味わい深いものがある。“出向先の女性従業員の中から、現在の妻を結婚相手の候補として認識した瞬間”、確実にその瞬間があったはずだが、今では完全に忘れ去っている。“同じく出向先で年下の同僚から勧められ、バーブラ・ストライサンド注3のアルバム「ギルティ」を録音したカセットテープを借りた瞬間”、以後続々とCD化されたアルバムを買い漁って現在に至っている。“定期的に開催されていた海老名ビナウォークでの、インストアーライブ初回出演の模様を新聞記事で読み、朝倉さや注4に興味を抱いた瞬間”。熱烈応援し現在に至っている。年金受給の世代に達した皆様、これまでの人生を振り返り、ご自身の“人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間”に、思いを馳せては如何でしょうか。


注1 『友情』

 講談社より、2017年10月に刊行された『友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』を改題文庫化し2021年1月に講談社文庫として発行。平尾氏と山中氏は同学年で、山中氏にはラグビー経験もある。学生時代からのあこがれの人であった平尾氏との交流では、山中氏の意外なミーハー振りが垣間見え楽しい。


注2 「人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間のエピソード」

ハイレベルのラグビー選手で、将来はラグビーで身を立てようと真剣に思っていた。ある公式戦で、平尾選手の伏見工業高校と対戦し、絶対的に自信を持っていたタックルで、平尾選手にあっという間に抜かれてしまった。自信が崩れ、医学の道に方向転換し、現在では、内視鏡分野で日本でも有数の腕前の医者となっている。平尾選手に抜かれた瞬間が、まさに人生の流れを変えた瞬間である。


注3 『バーブラ・ストライサンド』

米国の女性歌手、女優。1942年生まれ 1962年デビューし現在に至る。米国では超有名歌手であるにもかかわらず、日本での知名度が今一歩のところが、へそ曲がりの私にはピッタリ?発売したアルバムタイトルは、60タイトル以上。その全てがCD化されており、私はダブリも含め約100枚のCDを持っている。ちなみに、帰国子女速水優は、『バーブラにあこがれて』というアイドル本を発行している。(アマゾンで購入した。)


注4 『朝倉さや』

 山形出身のシンガーソングライター。デビュー当時のキャッチフレーズ “民謡日本一の山形娘”が、現在は、“新世代の歌姫”。『River Boat Song -Future Trax-』で2015年日本レコード大賞企画賞受賞。『古今唄集 -Future Trax-』で第13回CDショップ大賞2021 歌謡曲賞受賞。昨年発売され、国内外で85万本以上販売の農林水産省注目ゲームソフト『天稲のサクナヒメ』で、エンディングテーマ曲を担当。


         以上、某誌掲載予定だった原文(掲載文は文字数の制限により変更)                    

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希望と、追憶と、ひとつの小説。 小説を読まなくなって久しいのですが、今回の「人生の花火」は久々に興味をもって読んだ小説です。  花火や写真?という印象を持ちながら、読み進みましたが、青春譚として充分楽しめる物語になっていました。読んでいるうちにエピソードの多彩な展開についつい引き込まれていきます。実在の花火写真家の人生にモチーフを得た小説ですが、ドキュメンタリーではなく、作者の創作作品と言えます。

『人生の花火』、楽しく拝読致しました。幾度も挫折に遇ひつつも、花火を撮る写真家といふ道を見出してゆく悠二の生き様が、印象に残りました。 私のやうな平成生まれの人間の多くは、人生如何に失敗をせずに、効率的に目標に向かつて突き進むか、といふことばかりを無意識に考へてしまつてゐるやうに思ひます。一方で悠二の生き様は「スマート」ではありません。病ひや、後で思ひ返せば惜しくてたまらぬ恋人との別れなど、上手く

先日はご著書をご恵投くださり、誠にありがとうございました。 また、文学フリマにもお越しいただいたと伺いました。誠にありがとうございました。 ご著書を拝読いたしまして、お恥ずかしながら金武さんのことを初めて知りましたが、その背景にある人生と、鮮やかな花火のコントラストに驚くとともに、読み終わった後は心揺さぶられる思いでした。 いただいたご著書は部室に保管し、会員で共有させていただきます。 ご著書が駒