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感想文7

更新日:2022年1月19日

 不思議な経験をした。偶然続けて読んだ2冊の本がシンクロした。互いの内容を補完し合い融合して、より深い理解と感動を与えてくれた。

 最初の1冊は、幼馴染の冨部久君が、構想20年会社勤めの傍ら執筆した自費出版本『人生の花火』である。(以下、冨部本という。)花火写真家『金武 武』氏をモデルとし、極度の食物アレルギー体質で喘息発作に悩まされた幼少期から、花火写真家として独立し、その地位を確立するまでの主人公の人生が描かれている。

 続けて読んだもう1冊は、IPS細胞の研究者山中伸弥氏が、ラグビー界のレジェンド平尾誠二氏との交流を語った『友情』注1である。(以下、平尾本という。)胆管癌のため53歳で亡くなった平尾氏の晩年に知り合い、一緒に闘った闘病生活が描かれている。日本を代表する研究者山中氏の言葉には、説得力がある。

冨部本では、“人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間”として、関内の花火大会での、主人公と打ち上げ花火との運命的な出会いが描かれている。平尾本では、山中氏より、学生時代のラグビー仲間の人生が、平尾氏によって変えられた瞬間注2が語られている。これに対し、平尾氏は、「どっちが良かったか分からないが、人生まさに塞翁が馬。そういう人生の流れみたいなものって、予期せぬところで変わるんですね。」と、コメントしている。

 また、平尾氏は、「理不尽や不条理や矛盾を経験しないと、やっぱり人間は成長しないし、強くならないと思う。」と、語っている。冨部本では、金武氏の苦悩に満ちた半生が、淡々と描かれている。私は、金武氏に感情移入し金武氏と共に疑似成長し、そして初めて開いた展示会のシーンで、“ああ良かったな”と、感動したのである。

 平尾氏は、ボスザルの条件として、次の三項目を挙げている。

 ① 親の愛情を受けて育った

 ② 雌ザル子ザルに人気がある

 ③ 離れザルになるなどの逆境を経験している

 金武氏は、ボスザルの資質も備えていると思われる。

経験した数々の挫折は思い出したくもないが、“人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間”を振り返ることには、味わい深いものがある。“出向先の女性従業員の中から、現在の妻を結婚相手の候補として認識した瞬間”、確実にその瞬間があったはずだが、今では完全に忘れ去っている。“同じく出向先で年下の同僚から勧められ、バーブラ・ストライサンド注3のアルバム「ギルティ」を録音したカセットテープを借りた瞬間”、以後続々とCD化されたアルバムを買い漁って現在に至っている。“定期的に開催されていた海老名ビナウォークでの、インストアーライブ初回出演の模様を新聞記事で読み、朝倉さや注4に興味を抱いた瞬間”。熱烈応援し現在に至っている。年金受給の世代に達した皆様、これまでの人生を振り返り、ご自身の“人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間”に、思いを馳せては如何でしょうか。


注1 『友情』

 講談社より、2017年10月に刊行された『友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』を改題文庫化し2021年1月に講談社文庫として発行。平尾氏と山中氏は同学年で、山中氏にはラグビー経験もある。学生時代からのあこがれの人であった平尾氏との交流では、山中氏の意外なミーハー振りが垣間見え楽しい。


注2 「人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間のエピソード」

ハイレベルのラグビー選手で、将来はラグビーで身を立てようと真剣に思っていた。ある公式戦で、平尾選手の伏見工業高校と対戦し、絶対的に自信を持っていたタックルで、平尾選手にあっという間に抜かれてしまった。自信が崩れ、医学の道に方向転換し、現在では、内視鏡分野で日本でも有数の腕前の医者となっている。平尾選手に抜かれた瞬間が、まさに人生の流れを変えた瞬間である。


注3 『バーブラ・ストライサンド』

米国の女性歌手、女優。1942年生まれ 1962年デビューし現在に至る。米国では超有名歌手であるにもかかわらず、日本での知名度が今一歩のところが、へそ曲がりの私にはピッタリ?発売したアルバムタイトルは、60タイトル以上。その全てがCD化されており、私はダブリも含め約100枚のCDを持っている。ちなみに、帰国子女速水優は、『バーブラにあこがれて』というアイドル本を発行している。(アマゾンで購入した。)


注4 『朝倉さや』

 山形出身のシンガーソングライター。デビュー当時のキャッチフレーズ “民謡日本一の山形娘”が、現在は、“新世代の歌姫”。『River Boat Song -Future Trax-』で2015年日本レコード大賞企画賞受賞。『古今唄集 -Future Trax-』で第13回CDショップ大賞2021 歌謡曲賞受賞。昨年発売され、国内外で85万本以上販売の農林水産省注目ゲームソフト『天稲のサクナヒメ』で、エンディングテーマ曲を担当。


         以上、某誌掲載予定だった原文(掲載文は文字数の制限により変更)                    

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1 Comment


Hisashi Tomibe
Hisashi Tomibe
Aug 07, 2021

 本格的な感想文第二弾、ありがとうございます。

 また、ベストセラーの山中先生の本と同列に並べても頂き、大変光栄です。

 平尾誠二さんは伏見工業高校を経て同志社大学卒業と、我々京都人にもなじみの深い人物ですね。そして今のラグビー熱の礎を築かれた人でもあります。その彼の早すぎる逝去。

 一方、金武さんは健康面では苦しみながらも、今年58歳を迎えられ、まだまだ活躍されることと思います。一瞬一瞬の積み重ねであるこの人生、私も同じ会社に40年も勤務しているとはいえ、振り返ればそれなりに波乱万丈だったとも言えます。ただ、納得した人生を生きて来れたかというと、反省すること頻りで、それはこれからでも改悛していければと思っています。

 浦川さんにおいても、会社員人生を楽しみながら、その趣味の追及は他人の追随を許さない、徹底的なものがあると感心しています。まだまだ、その調子で道を極めましょう!

 さて、この感想文は某誌掲載予定でしたが、字数が多すぎるということで、止む無く改稿になりましたね。その改稿が秋に出ましたら、またこのブログでも紹介させて頂きます。

 

*さや姫については、ご存知でない方もおられるかもしれないので、歌を貼っておきます。  天穂のサクナヒメ エンディング - ヤナト田植唄 #朝倉さやLiveレコーディング - Bing video  

 

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