小説を読まなくなって久しいのですが、今回の「人生の花火」は久々に興味をもって読んだ小説です。 花火や写真?という印象を持ちながら、読み進みましたが、青春譚として充分楽しめる物語になっていました。読んでいるうちにエピソードの多彩な展開についつい引き込まれていきます。実在の花火写真家の人生にモチーフを得た小説ですが、ドキュメンタリーではなく、作者の創作作品と言えます。花火や写真に積極的な興味を持つ人以外にも、ぜひ読んでいただきたい作品です。 小林秀雄を敬愛する1955年生まれの作者は、「これは文学作品という立ち位置を意識して書いたものではなく、今生きている若い人たちにこそ読んでもらいたい作品です」と発言しています。 生きる事の意味や人生の苦しみと美しさが、かつて作者や写真家の人生の中にいた、若く魅力的な女性や愛する友人たちなどを通じて、浮き彫りになっていきます。 当時と同じ視線を意識的に保ちながら、物語はさまざまな経験や人との出会いを読者に語りかけます。 この小説はおそらく「こころの奥にある、若き日の想い出にさようならをするために」書かれたのではないかと私は感じています。 その長い道のりの果てに、人生の秘密が徐々に解き明かされていくところが、この小説の魅力です。
感想文19
更新日:2023年7月13日
感想文、有難うございます。
小説をめったに読まないジョージさんに、まずは最後まで読んで頂いたことに感謝です。
また、この小説に込められた私の意図や想いを的確に捉えられてくださっている点についてもありがたく思っています。但し、「こころの奥にある、若き日の想い出にさようならをするために」という点については、やや異を唱えなければなりません。まず、そういった想い出は、簡単にさよならできるものではありません。むしろ、自分を培ってきたものとして、心の片隅に大切にしまっておくべきものではないでしょうか。過去の想い出を美化したり、現実からの逃避先として、過去の想い出にどっぷりと浸ることは褒められるべきではないかもしれませんが、ある程度客観的な目を保ちながら思い出を蘇らせる、つまりは我々が歴史に向かうべき態度として、一番大切な心のありようをそのために遣うことは、とても大事なことだと思っています。
ジョージさんには、いつの日か、もう一度この小説を読まれることを切望致します。その時の感想をぜひお聞かせください。