一見どこにでもいるような少年がいろいろな人と出会いながら青年になっていく風景を横軸に、花火の写真を撮る執念を楯軸に、糸が絡まり、時にほぐれて物語が紡がれていくのが心地よい作品です。ただ心地よいだけでなく、この平凡な少年が実はアレルギーという困難を抱えてもがいている様子は同情を呼び起こすのではなく、誰しもがそれぞれ形の異なった困難を抱えた障害者であり、人である限り周りの人達に助けてもらわなければならない存在であることを改めて認識させてくれます。主人公が出会った人達が後年になってまた登場してる様は、打ちあがった花火の一つ一つの花びらが一旦消えたように見えて次の瞬間に別の色で夜空に現れる映像と重なります。
後半、主人公が自分に向かって飛び込んでくる水しぶきを見て花火の本質を捉えるくだりは、かつて葛飾北斎が海のしぶきを捉えたときもこうだったのではないか、と想像を膨らませてくれます。本来瞬間で消えるからこそ美しい花火をあえて静止画として閉じ込めようとする主人公の芸術性は、常に姿を変える浪の一瞬を神奈川沖浪裏に凝縮させた北斎とつながるのかもしれない。この主人公がどんな出会いをくりかえしながら熟年となっていくのか、それをこの作者がどのような読み物にしてくれるのかが今から楽しみです。 上野 千津子
上野さん、
感想文、ありがとうございます。一人の人が成長していく過程は縦軸、その時々において周りにいる人たちの関係性は横軸、それらが絡み合って、物語が進んでいくという構図の心地よさを指摘して頂いたこと、それこそ物語としての小説の神髄だと思っています。
その中で、いかに生き生きと主人公や登場人物たちの心を描くことが出来るか。文章の稚拙さは払拭できないながらも、その心の綾は描いたつもりです。
絵も写真も一瞬と永遠のせめぎ合いの中に後世残るものが確立されていくという点では同じですね。
やはり続編が気になりますでしょうか(笑)。
この物語の最後から20年を経た主人公が、この困難な時代にどのように世間において屹立しているか、希望と懊悩を含めたストーリーを描きたいと思っています。アメリカでの上野さんの活躍に刺激を受けて、グローバルな、幅広い目線で、主人公の生き様をとらえきることが出来ればと思っています。
冨部