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岡崎武志さんの新刊(38)

更新日:2023年3月9日


 岡崎武志さんには2017年より年に数回行われてきた新潮講座の「文学散歩」でお世話になっており、その縁で『人生の花火』の帯を書いて頂きましたが、今年の1月に『ここが私の東京』、『憧れの住む東京へ』という二冊の本を上梓されました。この二冊は2012年に刊行された『上京する文学』の系譜を持つ作品で、ひょっとすると四作目があるかもしれませんが、取り敢えず上京シリーズ三部作の完結を見るものです。

 『上京する文学』では題名そのまま、文学者のみが取り上げられていますが、二作目、三作目には、藤子不二雄Ⓐや松任谷由美、浅川マキなど文学の枠を超えた名前も出てきます。いずれも岡崎さん独自の読み易い文章ながら、様々な事実や検証に裏付けられた鋭い視点で登場人物たちの上京の核心に迫っていきます。例えば、友部正人の代表曲「一本道」について。


 僕は今 阿佐ヶ谷の駅に立ち

 電車を待っているところ

 何もなかった事にしましょうと

 今日も日が暮れました

 あゝ 中央線よ空を飛んで

 あの娘の胸に突き刺され


 この詞の引用のあと、阿佐ヶ谷駅のホームに立った者だけが、真に「あゝ 中央線よ空を飛んで あの娘の胸に突き刺され」の詩句が、「突き刺さって」くるのだ、と述べられています。その理由になるほどと納得。興味のある方は、是非とも本を手にとって読んでみてください。

 余談ですが、年末に岡崎さんと軽く忘年会をやりました。その前に三鷹駅近くにある古書店を訪れ、店外に陳列されていた百円均一本の中から岡崎さんが一冊買われましたが、その本をプレゼントして頂きました。それはポール・オースターの『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』でした。ポール・オースターは好きな作家のひとりで、偶然にも彼の「ブルックリン・フォリーズ」を読み終えたところでした。『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』はポール・オースター自身の作品ではありませんが、彼の監修による、全米各地の多種多様な人たちから送られてきたストーリーは、それこそ彼の小説のネタになるような不思議な話が満載。それはそれでいいのですが、問題はこの素晴らしい本が百円で売られていたという事実。もちろん、古本通としてはそういう価値のある本を一瞬で見つけだし、安い値段で買うという腕前の見せ所ではありますが、もともとこの本を売った人は数十円の収入にしかならなかったこと、それくらいの価値しかなかったことを考えると、ポール・オースターの愛読者としては悲しい気持ちになります。いや、そんなことを考える必要はなく、いいものを頂いたという事で素直に喜ぶべきなのでしょうか? それぞれのストーリーを味わいながら、そんなことをふと思いました。 


*ちなみに、HOMEのページに掲載の「オカタケな日々(77)」に出てくる寝過ごし常習犯(3都県越境者)は私です(汗)。






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