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感想文18

 『人生の花火』、楽しく拝読致しました。幾度も挫折に遇ひつつも、花火を撮る写真家といふ道を見出してゆく悠二の生き様が、印象に残りました。  

 私のやうな平成生まれの人間の多くは、人生如何に失敗をせずに、効率的に目標に向かつて突き進むか、といふことばかりを無意識に考へてしまつてゐるやうに思ひます。一方で悠二の生き様は「スマート」ではありません。病ひや、後で思ひ返せば惜しくてたまらぬ恋人との別れなど、上手く行かなないことで溢れてゐます。現代ですと、これらの困難を「克服して」、「バネにして」成し遂げた云々が、良しとされさうですが、悠二の人生はさういふものでも無ささうです。悠二がぶつかつた困難は、悠二のその後の人生にまでずつと響き続けます。しかしそれこそが、悠二の人生を味はひ深いものにしてゐるのではないでせうか。  現代人の、困難を「乗り越へよう」とする思考は、ともすればそれら困難が恥づかしいものであり、人生に無かつたものにしてやらうといふ願望の表れであるのかもしれません。しかし冨部さんのお書きになつた『人生の花火』を読みますと、挫折も人生を彩る大切な一部なのだと、気がつかされる気が致します。  


閲覧数:28回1件のコメント

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感想文27

このたび、「人生の花火」を拝読し、感動いたしました。 登場人物の心理描写が私にはとてもしっくりくる感じがして、「そうだよな」「なるほど、そう思うよな」という風に、登場人物(悠二)に一つ一つ共感しながら読むことができました。井上靖の作品(しろばんば 等)を読んだ時のように、自分の心にピッタリとくる言葉を次々と提供してくれているような感じを、読みながらずっと受けておりました。 中でも一番印象に残ってい

感想文26

ことのほか厳しい暑さが続いている八月も、もうすぐ終わろうとしています。 過日は長編小説『人生の花火』をお贈り頂きまして、心よりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。とても読み応えがあり、私も悠二達の過ごした頃に引き込まれて行き、そこかしこに冨部さんの執筆への熱い想いが伝わってきて感動いたしました。 私たちの人生・社会も決して順調に、思い通りになるものではありません。背負い切れない艱難が

感想文25

『 人生の花火 』読み終えました。ひさびさの一気読みです。 冨部久志さんの文章がなにより素晴らしい。読ませる! 金武 武さんをモデルとした主人公の「現代的」生き方に最終的に共感し、著者である冨部さんの取材力と真摯な執筆態度にもエールを送りたいです。 青春を描いた本として読みつがれることを期待してます。装幀もいいです。各所にあしらわれた花火の写真も素晴らしい。 PASSAGEbi

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