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感想文27

 このたび、「人生の花火」を拝読し、感動いたしました。

 登場人物の心理描写が私にはとてもしっくりくる感じがして、「そうだよな」「なるほど、そう思うよな」という風に、登場人物(悠二)に一つ一つ共感しながら読むことができました。井上靖の作品(しろばんば 等)を読んだ時のように、自分の心にピッタリとくる言葉を次々と提供してくれているような感じを、読みながらずっと受けておりました。

 中でも一番印象に残っているのが、ユウジとユッコの恋愛編です。十二月に二人が結ばれる時の食事パーティー、ユッコの別れの手紙、その後のユウジの後悔や悲しみ、その気持ちをわかったうえで厳しい助言をしたり一緒に悲しんでくれたりする姉 燿子とのエピソードなど、身につまされるものがありました。読んでいて、ユウジやユッコの切ない魂に触れて、こちらの胸も高鳴ったり動揺したりする感じがしました。ユウジは、可愛く知的で優しいユッコのことが大好きなのに、(花火が美しく燃えた後に必ず消えるような必然で)恋愛のピークが過ぎると、ユッコが彼女でいることが当たり前になり、心がすれ違い、思いもかけぬ終わりを迎えてしまう。その時その時の二人の心情に共感することができて、恋愛の春夏秋冬が書き尽くされている感じがしました。素晴らしい文章に、感動した次第です。

 また、悠二が高校生の時に初めて間近で見た花火に大感動したのに、周りの友達はそれほど感動しなかった、というエピソードも印象に残りました。本当に好きなことというのは、全員とは共有できないものなのではないか。世間がわかってくれなくても、自分が充実しているから不足はない。悠二にとっての花火とは、そういうものだと思いました。

 悠二は花火のことが本当に好きだから、それが活力や勇気の源になって、他の花火写真家の先生に否定されてもめげなかったり、飛び込みでマリンタワーに展覧会開催のお願いをしにいったりできるのだと思います。君は、自分が欲していることに気づいているか——そう問いかけられている感じがしました。私は、好きなことについての自覚を不断に救い出していきたい。その意味で、この小説は、自分を見つめ直したり、思い切って何かを始める際のお手本になってくれるような気がしました。何より元気がもらえた感じがしております。

閲覧数:37回1件のコメント

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感想文26

ことのほか厳しい暑さが続いている八月も、もうすぐ終わろうとしています。 過日は長編小説『人生の花火』をお贈り頂きまして、心よりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。とても読み応えがあり、私も悠二達の過ごした頃に引き込まれて行き、そこかしこに冨部さんの執筆への熱い想いが伝わってきて感動いたしました。 私たちの人生・社会も決して順調に、思い通りになるものではありません。背負い切れない艱難が

感想文25

『 人生の花火 』読み終えました。ひさびさの一気読みです。 冨部久志さんの文章がなにより素晴らしい。読ませる! 金武 武さんをモデルとした主人公の「現代的」生き方に最終的に共感し、著者である冨部さんの取材力と真摯な執筆態度にもエールを送りたいです。 青春を描いた本として読みつがれることを期待してます。装幀もいいです。各所にあしらわれた花火の写真も素晴らしい。 PASSAGEbi

感想文24

花火写真家の金武武さんをモデルにした小説。 あくまでもモデルで自伝ではない。あとがきにも書かれているが、金武さんだけではなく作者である冨部さんの経験も織り込まれているらしい。 描かれている人生はまさに波乱であるように感じる。 喘息で闘病した幼少期。療養所での出会いと別れ。大人達に夢を否定され違う職につくも長続きせず退職。そして結婚式場のカメラマン見習いになったり。 しかし学生時代に見た花火の感動を

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