感想文3

更新日:2021年8月1日

 小,中,高校の同級生、冨部久君が、あの大手新潮社より自費出版本を出すとの一報を聞き、大変驚いた。さらに、実物を手にして、吃驚。私のイメージの自費出版本とは大違い。カバーには、主人公のモデルである花火写真家金武武さん撮影の、美しくも妖しく幻想的な打ち上げ花火の写真、帯には、書評家のコメント。400頁、厚さ3cmの堂々たるハードカバー本であった。

 早速、最近の私の読書スタイル、“独立した長女が残していった勉強机に座り、CDで音楽を流し、レポート用紙でメモをとる”で、読み始める。

 まず第一章で、高校2年生の夏休み、同級生3人と見物に出かけた、横浜関内の花火大会での、主人公と打ち上げ花火との運命的な出会いが描かれている。当時の主人公は、まだ気付いていなかったが、人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間の描写である。第二章以降は、遡って、アレルギー体質で喘息発作に悩まされた幼少期から、花火写真家として独立し、その地位を確立するまでの主人公の人生が、時系列で語られている。読者は、第二章以降を読み進めるにつれて、いつの間にか、第一章の運命的な出会いの瞬間に追いつき追い越していく。作者の工夫が感じられる構成となっている。“登場人物に、どれだけ感情移入できるか”、これが、私の小説を評価する最大の基準である。私は、この小説を読み始めると、この本が、自費出版本であり、友人の冨部氏のデビュー作であるとかの周辺情報は、一切忘れ去り、小説の世界に没頭することができた。極度の食物アレルギー体質であり、喘息に悩まされていた主人公が、山間部の療養所でほぼ1年間療養し、中学3年の新学期に元の中学校に復帰する、第三章のラストは、前半の山場である。クラスでの音楽発表会で、療養所で練習してきたギターで、「禁じられた遊び」を演奏し、喝さいを浴びたシーンでは、目頭が熱くなった。高校卒業後の専門学校で、初めて出来た恋人との交流では、主人公と一緒に、はらはらどきどきしながらページを捲っていた。そして、第九章で、写真家としての独立を決意し、横浜のマリンタワーで初めての展示会を開き、それまでの人生で交流した多くの知人が来場するシーンでは、再び目頭が熱くなった。

 冨部君のデビュー作であるが、何のストレスも無く読み進めることができ、登場するキーウーマンの女性は、皆大変魅力的である。中学校,療養所,高校,専門学校さらには、転々とした就職先の友人や世話になった人々との交流が、折に触れて描かれている。悪い人が一人も出てこない小説であり、それが、穏やかで爽やかな雰囲気を醸し出している。第十章での、超有名テレビ番組への出演エピソードも楽しい。

 書店取り寄せや、ネット通販で購入可能である。是非、多くの皆様に、この冨部氏のデビュー作を読んで頂き、モデルとなった花火写真家金武さんの人生に触れ、自分の人生を振り返って頂きたい。

浦川哲朗

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希望と、追憶と、ひとつの小説。 小説を読まなくなって久しいのですが、今回の「人生の花火」は久々に興味をもって読んだ小説です。  花火や写真?という印象を持ちながら、読み進みましたが、青春譚として充分楽しめる物語になっていました。読んでいるうちにエピソードの多彩な展開についつい引き込まれていきます。実在の花火写真家の人生にモチーフを得た小説ですが、ドキュメンタリーではなく、作者の創作作品と言えます。

『人生の花火』、楽しく拝読致しました。幾度も挫折に遇ひつつも、花火を撮る写真家といふ道を見出してゆく悠二の生き様が、印象に残りました。 私のやうな平成生まれの人間の多くは、人生如何に失敗をせずに、効率的に目標に向かつて突き進むか、といふことばかりを無意識に考へてしまつてゐるやうに思ひます。一方で悠二の生き様は「スマート」ではありません。病ひや、後で思ひ返せば惜しくてたまらぬ恋人との別れなど、上手く

先日はご著書をご恵投くださり、誠にありがとうございました。 また、文学フリマにもお越しいただいたと伺いました。誠にありがとうございました。 ご著書を拝読いたしまして、お恥ずかしながら金武さんのことを初めて知りましたが、その背景にある人生と、鮮やかな花火のコントラストに驚くとともに、読み終わった後は心揺さぶられる思いでした。 いただいたご著書は部室に保管し、会員で共有させていただきます。 ご著書が駒