小,中,高校の同級生、冨部久君が、あの大手新潮社より自費出版本を出すとの一報を聞き、大変驚いた。さらに、実物を手にして、吃驚。私のイメージの自費出版本とは大違い。カバーには、主人公のモデルである花火写真家金武武さん撮影の、美しくも妖しく幻想的な打ち上げ花火の写真、帯には、書評家のコメント。400頁、厚さ3cmの堂々たるハードカバー本であった。
早速、最近の私の読書スタイル、“独立した長女が残していった勉強机に座り、CDで音楽を流し、レポート用紙でメモをとる”で、読み始める。
まず第一章で、高校2年生の夏休み、同級生3人と見物に出かけた、横浜関内の花火大会での、主人公と打ち上げ花火との運命的な出会いが描かれている。当時の主人公は、まだ気付いていなかったが、人生の流れが、予期せぬところで変わった瞬間の描写である。第二章以降は、遡って、アレルギー体質で喘息発作に悩まされた幼少期から、花火写真家として独立し、その地位を確立するまでの主人公の人生が、時系列で語られている。読者は、第二章以降を読み進めるにつれて、いつの間にか、第一章の運命的な出会いの瞬間に追いつき追い越していく。作者の工夫が感じられる構成となっている。“登場人物に、どれだけ感情移入できるか”、これが、私の小説を評価する最大の基準である。私は、この小説を読み始めると、この本が、自費出版本であり、友人の冨部氏のデビュー作であるとかの周辺情報は、一切忘れ去り、小説の世界に没頭することができた。極度の食物アレルギー体質であり、喘息に悩まされていた主人公が、山間部の療養所でほぼ1年間療養し、中学3年の新学期に元の中学校に復帰する、第三章のラストは、前半の山場である。クラスでの音楽発表会で、療養所で練習してきたギターで、「禁じられた遊び」を演奏し、喝さいを浴びたシーンでは、目頭が熱くなった。高校卒業後の専門学校で、初めて出来た恋人との交流では、主人公と一緒に、はらはらどきどきしながらページを捲っていた。そして、第九章で、写真家としての独立を決意し、横浜のマリンタワーで初めての展示会を開き、それまでの人生で交流した多くの知人が来場するシーンでは、再び目頭が熱くなった。
冨部君のデビュー作であるが、何のストレスも無く読み進めることができ、登場するキーウーマンの女性は、皆大変魅力的である。中学校,療養所,高校,専門学校さらには、転々とした就職先の友人や世話になった人々との交流が、折に触れて描かれている。悪い人が一人も出てこない小説であり、それが、穏やかで爽やかな雰囲気を醸し出している。第十章での、超有名テレビ番組への出演エピソードも楽しい。
書店取り寄せや、ネット通販で購入可能である。是非、多くの皆様に、この冨部氏のデビュー作を読んで頂き、モデルとなった花火写真家金武さんの人生に触れ、自分の人生を振り返って頂きたい。
浦川哲朗
浦川さん、 大変丁寧な感想文、ありがとうございます。
浦川さんがこの物語の中に入り込んで、主人公や登場人物の心の動きをじかに感じるような読み方をして頂いたこと、作者にとっては本望です。私も読み返すと、作者だということを忘れて、あるところでは必ず目頭が熱くなります(笑)。これはやはり物語の力、実際にあった逸話の力だと思っています。そしてこの物語を貫き通しているのは、やはり花火への愛ですよね。浦川さんも好きな歌手への想いを貫き通してください。
あと、悪い人が一人も出てこないとありますが、少し問題のある人が一人いました。 とにかく楽しんでもらえてよかったです。また同窓会の時にいろいろと話しましょう。
冨部