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二つの展示会(60)

「生きていることは、やっぱり懐しいことだな!」と書いてありました。その通りですね。


 6月1日から20日までGINZA SIX 6F 銀座 蔦屋書店 アートスクエアで行われていた大河原愛展に、先週、遅ればせながら行ってきました。

 最終日までに15点以上が売約となったとのことです。今は私の財布では買えません。


 大河原愛さんは、今から十年前、たまたま銀座の裏通りを歩いていて、ふと目にした絵に惹かれて入った画廊でお会いしたのが最初でした。その中で気に入った作品がそれほど高くもなかったので、その場で購入しました。以来、どこかで展示会をやるごとに案内が来るようになり、なるべく足を運ぶようにして、しばらくは気に入った作品があれば購入していました。

        左が2007年の作品で、右が2006年の作品です。


 ある種の痛みを感じるその独特の人体の捉え方と、それでいてスタイリッシュな部分もある作風は進化を続け、今回出展された下の「Silence and warmth」に至っては、不在と実在、悪霊と天使が同居しているような、重層的な世界を感じさせ、愛さんがまた一つ突き抜けた世界に入ったと思わざるを得ませんでした。今後もますます活躍されることでしょう。

  この絵はジョセフ・オコーナーの小説「シャドウプレイ」の表紙にもなりました。


 もう一つの展示会は神奈川近代文学館で行われている庄野潤三展。それほど熱心な読者ではありませんが、「夕べの雲」と「絵合わせ」は、実に味わい深いと思いました。岡崎武志さんも熱心な読者で、小説の舞台にもなっている生田の家に共に見学に行ったこともあります。その岡崎さんが初日に行って、心のこもったいい展示だったというので、私も足を運ぶことにしました。

 渋谷で東横線に乗り換え、終点の元町・中華街までは特急一本で行ける快適さ。そこから、少し歩くと海の見える丘公園にたどり着き、緑に囲まれた階段を上っていくと、色とりどりの花が植えられた花壇が連なっているのが目に入ります。

              これは珍しい?白アジサイ


 やがて、横浜ベイブリッジが眺められる見晴らしの良い場所に行き当たりますが、そこを通り過ぎてさらに歩くと、ようやくお目当ての神奈川近代文学館に辿り着くことができました。


 入ってすぐの庄野潤三の映像にインタビュアーとして阪田寛夫が登場していました。 実は勤務会社の社歌が阪田寛夫作詞指導、大中恩作曲なのです。たまたま当時の社長と阪田寛夫が同じマンションに住んでいて、仲が良かったことから頼んで作ってもらったそうです。

 その一番はこんな歌詞。


1. あゝ創生の 太古より  いのちうけつぎ 年月を

堪えて刻んだ 年輪の   その美しさ 気高さを

この手に染めて 世に出すは    わが北三の 使命なり


 なかなか素敵な歌詞だと思いませんか?


 大学の工場実習で見て、一目惚れしたボリビアのローズウッド。この美しい木目と出会っていなければ、北三には就職していなかったことでしょう。


 さて、 肝心の庄野潤三ですが、文学の師(伊藤静雄、佐藤春夫、)や友人や、そして何よりも家族に恵まれ、自らの信念に忠実に生きる事の出来た、幸福な作家だと思いました。中に、 河上徹太郎と一緒に写っている写真があったので、ひょっとして、小林秀雄との接点が何かないかかと思って探しましたが、特に見当たりませんでした。しかし、どこかで庄野潤三と小林秀雄について読んだことがあると思い、家に帰って頭を巡らしていたら、これを思い出しました。



 大島一彦氏は若い時に庄野潤三とも親交のあった小沼丹に師事し、今は早稲田大学文学部英文科の名誉教授で、オースティンの小説の翻訳などをされています。個人的には池田雅延氏の小林秀雄に関する講座でよくご一緒させて頂いており、以前、庄野潤三の家の見学会に聴講生十数名と共に訪問したこともあります。その大島氏が、小林秀雄が庄野潤三の小説を高く評価していたことを発見して嬉しく思われたという大変いい話を書かれています。

 また、今回の展示品で特に目が釘付けになったのが、庄野潤三の書斎を模した展示物の中の国語辞典でした。

 左から三番目にあるのが岩波の国語辞典。右側がガムテープで止めてあります。


 私が今も使っているのも岩波の国語辞典で、しかも取れた表紙をガムテープで補修しているところも全く同じでした。私のは第二版ですが。


 さて、今回唯一残念に思ったのは、天気の良い土曜日だったにもかかわらず、来場者が数えるほどしかいなかったことです。この展示会、8月4日までやっていますので、少しでも興味のある方は是非とも会場に足をお運びください。庄野潤三の作品を読んだことのある人なら、きっと満足して頂けると思います。

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