藤本壮介氏の建築(73)
- Hisashi Tomibe
- 9月28日
- 読了時間: 5分

藤本壮介氏を知ったのは、遅ればせながら今年の 6月16日に行われた国際観光施設協会のセミナーにおいてで、氏は自らの設計による建造物をいくつか画像で紹介された。中でも驚いたのは、フランスのモンペリエに建てられた集合住宅である。箱型か、せいぜい円筒型、さらにはその変形タイプしか見たことのない集合住宅が、ここでは全く異質の、見たことがないような形状となっている。建物から突き出ているのはバルコニーならぬリビングルームである。これは気候に恵まれたモンペリエ市民が、食事や昼寝などの憩いを外でする習慣があるということで設計されたそうである。実際住んでいる住人の評判はすこぶる良いとのこと。
また、ハンガリーのブタペストに建造された音楽ホール等の複合施設は、周囲の森と一体化した、身も心も癒される空間になっている。

日本では、太宰府天満宮の仮殿が奇抜である。これは三年間限定という事で、屋根の上に草木を配置したもので、これもまた周囲の森と一体化しているように見えるデザインになっている。

また、現在上映中の「鬼滅の刃」の舞台を思わせるような、こんな建築もある。

こうなれば、今まであまり興味がなかった大阪万博の大屋根リングは一度見るしかない、そう思って、過日、会場に足を運んだ。
入場券は10時からの回だったが、10時前にゲートに到着しても、9時からの回の人たちが続々と前を進んでいき、会場内に入れたのは10時半くらいだった。中は広々としているが、それ以上に人がごった返している。おまけに酷暑で、すぐに汗だくになったが、取り敢えず大屋根リングに向かった。そしてその下に入ると、日陰の風通しの良い場所という事で意外と涼しい。しばらく歩くと、それだけでなく、この大屋根リングの下は、食事を取る場所、休憩する場所、パビリオンに入るまでの待機場所、パビリオン間の通路など、様々な機能的要素も兼ね備えていることが分かった。

そうして今度はエスカレーターを利用して大屋根リングに登ってみた。こちらは強烈な日差しが降り注いでいて、日傘なしでは火傷しそうな暑さである。ただし、そのせいか人影はそれほど多くなく、眼前には何も遮るものがない空と海が広がる。下界の混雑から抜け出た開放感が半端ではない。

クッション性があって歩きやすいウッドデッキのそばには草花が植えられていて、そこは既に虫たちの憩いの場所にもなっている。

さらにはその虫たちを狙うツバメも飛び回っている。
気候さえよければ、いつまでも歩いていたい場所だが、とにかく暑すぎるので、取り敢えず一周したあとは下に降りた。そして売店でサンドイッチとコーヒーを買ってベンチで食べ、そのあと、どこかパビリオンに入ろうかと思ったが、どこも1-2時間待ちである。既に12,000歩くらい歩いていてかなり疲れていたので、渋々退散することにした。
東京に戻ってしばらくしてから、六本木の森美術館で行われていた「藤本壮介の建築」展を見に行った(藤本壮介の建築:原初・未来・森 | 森美術館 - MORI ART MUSEUM)。
最初の会場では、膨大な数の建築模型が展示されていた。説明を読むと、当たり前だが、アイデアだけに終わったものもある。

本人が話す動画もいくつかあって、中でも大屋根リングに関するコメントが興味深かった。曰く、当初はオファーを受けて戸惑ったが、世界のいろんな国からいろんな人々が集まってくる催し物なので、分断が激しさを増すこの世界が、この場所だけでも一つに繋がるこごができるという象徴として、この大屋根リングを考案したとのこと。確かに、輪の中に多様な国のパビリオンが一体となって存在し、かつ、輪の外の日本のパビリオンとも自由に行き来ができるようになっている。その概念を実現するのに、具体的にはスギやヒノキの集成材を用いて、日本の伝統工法である「貫(ぬき)接合」により、輪を左右上下にすこしずつ広げていったのである。


これは優れた小説家が、自らの思想や信条を元に、具体的には言葉を一つずつ紡いで小説という作品に仕立て上げていく作業に似ているとも言える。思うに、最初の思想や信条がいくら優れていたとしても、それを世に送り出す作業の段階で失敗してしまうことはあるかもしれないが、最初の段階で基礎理念のようなものが突き詰めて考えられていなければ、そのあとの実作業で構築されたものは、多分に行きあたりばったりの、中途半端なものになってしまうのではないだろうか? それはそれで面白いものもあるかもしれないが。
さて、現在は仙台の音楽ホールと震災メモリアル拠点の複合施設が進行中である。これも従来の音楽ホールとは全く異なった形状を持つ。会場ではその大型模型が展示されていた。2031年度に竣工予定という事だが、ぜひともこの客席に座って、音楽を聴きながら、その浮遊感を楽しみたいものである。
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